私は子供の頃からの美味しんぼファンです。料理や酒に関する知識のベースには美味しんぼの影響を強く受けています。とくに24巻のインド料理特集には衝撃を受けました。1990年の段階で、あれほど深くインド料理を紹介した日本の記事はなかったのではないでしょうか。
これまで南インド、スリランカ、ネパールなどを旅して来ましたが、北インドは未踏の地でした。そこで年末年始の休暇を利用してデリーとジャイプールの旅に行ってきました。
今回の旅はひたすら食べることが目的です。観光はいっさいしないくらいの勢いです。できれば美味しんぼ24巻に出てきた料理を実際に食べてみようと考えました。結果からいうと、美味しんぼ24巻に出てきた料理のいくつかを食べることができました。
ちょっと長いので実際のインドのレストランに興味のない人は軽く読み飛ばしてもらえれば…。
デリーに到着して初日の夜は、ITC MauryaホテルのDum Pukhtレストランを訪れました。
こちらのレストランは、美味しんぼ24巻に登場するクレシシェフ(Imitiaz Qureshi)氏が総料理長を勤めるITCグループの高級北インド料理店です。Dum Pukhtという店名は、シェフが現代に蘇らせたDum Pukhtという調理法の名前でもあります。Handiという鍋に、蓋をしてパン生地で密閉して長時間煮込むという料理法です。
この店では、美味しんぼに出てきた料理であるRaan-e-Dumpukht (羊の足の蒸し焼き)と、ウェイター氏のおすすめであるDal Dumpukht (黄色ダル)を頼みました。パンはやはりおすすめのKhamiri Rotiにしました。
Raan-e-Dumpukhtは、美味しんぼのようにパイ生地に包まれてはいないものの、感動の味わいでした。マトンは極めて柔らかく煮込まれ、口に入れると、ふわっとサフランとカルダモンの香りが漂います。ベースとなるスパイスの組み合わせの香りと、サフラン+カルダモンの二層構造になっていることがわかります。
Dal Dumpukhtは、一見どこにでもある普通のダルなのですが、口に含んだ瞬間に芳醇で濃厚なギーの香りが口いっぱいに広がります。使っているギーの品質は他とは全く違うのだなと思いました。単なるダルがここまで素晴らしいごちそうになるのかと驚愕でしかありません。
Khamiri Rotiはしっかりした味わいで、油などは塗られておらず、濃厚な料理によく合います。
インドはあまりお酒を飲まない国ですから、お酒には期待していなかったのですが、インド産ワインがグラスでいただけるということで、頼んでみることにしました。スパークリング(Sula Brut Methode Traditionelle)は非常に完成度が高くて良いお酒でした。そこでウェイター氏のおすすめで赤ワイン(Fratelli Sangiovese)も頼んだのですが、これは僕の好みにドンピシャの素晴らしいワインでしたね。ワイン通ではないので、詳しい説明はできませんが、とにかく良かったです。
サービスも完璧であり、僕の美食人生の中でも最高の夕食の一つとなりました。値段もそれ相応であり、一人で7691.33ルピー(1.32万円)もしてしまいましたが、それだけの価値は十分にあります。この旅のあいだに再訪することを決めました。
二日目の昼は、タンドーリチキンとバターチキンの発祥の店と言われるMoti Mahalで食べたのですが、タンドーリチキンは肉がガチガチに硬く、バターチキンは酸味が強すぎ、どちらもいまいちでした。人によって評価が別れる店なので、時間帯などによって味にバラつきがあるのかもしれませんね。
二日目の夜は、体調が悪くなってしまったためパスにしました。一食抜いても朝までお腹が空かない北インド料理にはすこし脅威を感じます…。
三日目の昼は、Jama Masjidのそばにある老舗Karim's Hotelに行きました。ぜひ食べたかったブレインカレーは品切れのため、シークケバブとマトンコルマを食べました。パンは紙のように薄いRomali Rotiを選びました。シークケバブはふわふわに柔らかく、美味しいものでしたが、マトンコルマは普通かなと言う感じです。グレービーの味しかせず、日本のインドカレー屋で出てきそうな味です。Romali Rotiは紙のように薄いのに、なかなか強靭で、面白いパンでした。
Karim's Hotelの周辺は庶民的な町並みで非常に不潔なので、不潔なのに強い人以外はおすすめしません。歩いていると確実に食欲をなくします。まぁ、正直わざわざ行くまでもないかなと思いますが。
三日目の夜は、やはりITC Mauryaホテルにあるタンドーリ専門店Bukharaを訪れました。こちらの店は満員御礼で大賑わいでした。シンプルにタンドーリ盛り合わせとダルとナンのセットを、「この料理は手で食べるのが美味しいので」と言ってカトラリーなしで提供するスタイルが、外国人にも現地人にも受けているようです。
ダルはやはりめちゃくちゃ美味かったですね。ここのダルは、黒いダルなんですが、うまくバターで煮込んであり、重さを一切感じさせない絶品です。香りからすると、こちらではギーではなく、バターを使っているようです。僕は、黒いダルはあまり好きではないのですが、ここのは夢中になって最後のひとさじまで食べてしまいました。
タンドーリ盛り合わせはノンベジを頼んだのですが、やはりちょっと日本人の好みからすると全体的にパサパサのように感じました。インド最高のタンドーリ専門店でこの程度の味であるならば、インドのタンドール料理は日本人にとってはそんなに美味しいものではないのかもしれないですね。次回来ることがあればベジを頼んでみようと思います。
コンセプトも成功しており、活気のある店内に、カジュアルでattentiveなサービス、レトロ調の内装などがあわさって、とても良い店だと思います。でも僕としてはDum Pukhtの料理のほうがずっと好きですね。
ちなみに僕が世界最高のケバブだと思うのはイスタンブールにあるZubeyir OcakbasiのAdana Kebabです。これについてはまたそのうち別稿で紹介できればと思います。
四日目の昼は、Lazeez Affaireという店です。ジャイプールへの移動のため、空港へ向かう途中に立ち寄りやすいと思われたこちらの店を選びました。Murgh Handi Lazeezという美味しんぼに出てきた料理が食べたいのと、内装がよさそうなのが選んだ理由です。
Murgh Handi LazeezとHyderabadi Biryaniを頼みましたが、Murgh Handi Lazeezは真っ白でクリーミーなチキンカレーであり、美味しんぼにでてきたのとはだいぶ違う感じでした。Hyderabadi Biryaniは、素焼きの器に入れられて、蓋をパンで閉じる、先述のDumスタイルでそのまま提供してくれて感動しました。これが本当のDum Biryaniか!と。
ま、料理の味は普通に美味しいかなという感じですが、デザートに頼んだGulab Jamunが熱々で供されて感動しました。Gulab Jamunといえば、甘ったるくてぼそぼそしていてあまりおいしくないというイメージだったのですが、熱々の状態で供されると、とても甘いのが良いほうに働き、大変おいしかったですね。見た目も光り輝いていました。
五日目からはジャイプール編です。ここではラジャスタン料理をメインで食べる予定です。
五日目の夜はNatrajという店でRajasthani thaliを食べました。目的は美味しんぼに出てきた豆の塊のカレーです。美味しんぼにはベレという名前で載っていましたが、実際にはGatta CurryまたはGatta ki sabziという名前のようです。豆をゆでて作る場合も、揚げて作る場合もあるようです。
Gatta curryは、まぁ、普通に豆の塊のカレーという味でした。ターリーでは、二つのカレーが供されたのですが、同じような色と見た目なのに、ソースが異なる味で、まったく違う味が楽しめたのが印象的です。Gatta curryはコリアンダーシードが使われていたのが特徴的です。パンも渋い全粒粉?のパンなどが中心で、ターリー全体としては、ちょっと味わいが重たすぎるかなと思いました。
六日目の昼夜と、七日目の昼は疲れていたのでホテルの近くのSilver Cloudレストランで食べました。Handi MaasとLaal Maasというラジャスタン料理を食べたのですが、この二つはどちらも羊の辛いカレーなのですが、まったく作り方と味わいが違っていて面白かったです。ついでに八日目の夜もこの店でビュッフェを食べました。チキンカレー(Murgh lababdar)が鶏肉のダシが効いて非常に美味しかったですね。
Handi Maasはさわやかなオニオンのグレービーに、香菜の刻んだものがかけられており、鮮烈な味わいです。それにたいしてLaal maasは唐辛子ベースのグレービーで、どろっとした渋い味わいです。どちらもなかなかよくできていると思いました。
七日目の夜は、Jaipurで有名なChokhi Dhaniという店に行きました。テーマパーク風レストランだと思っていったら、どちらかというとテーマパークに夕食がおまけでついているみたいな感じでしたが、本格的ラジャスタンターリーが味わえました。やはりラジャスタン料理のみだと重すぎるという印象です。
なぜかターリーに甘いものが三つもついてきたのが印象的です。スージーハルワのようなもの二つと、キチュリが一つです。キチュリには大量のギーと砂糖を上から掛けたのには驚きました。
八日目の昼は、ホテル近くの有名店NirosでRajasthan Sulaというマトンの柔らかい串焼きのようなものを食べました。串から外されて出てきました。味は普通に美味しいです。
九日目の夜は、デリーで再度Dum Pukhtを訪れました。サービスは前回とは担当がかわり、やや弱い感じに。黒いダルとMurg Handi Qormaを食べました。美味しいけど、初日ほどの感動はなく、ダルはBukharaと近いものだったので注文を間違えたなという感じです。
十日目の昼は、ホテル内のThe Indian Grillで、ベジタンドーリセットとビリヤニを食べました。全く無名のレストランにもかかわらず、味はなかなか馬鹿にならないものでした。タンドーリは今回もいろいろ食べましたが、パニールティッカが本場タンドーリの中ではベストの品かなと。柔らかくてジューシーでスパイスが効いて、ワインによく合います。
十日目の夜は、Indian Accentというデリーで最も高級な現代インド料理の店で食べました。現代料理というので、なんか奇天烈な料理法でやたら少ない量のものがでてくるのかと不安でしたが、実際はなかなか良かったです。
サービスは抜群で、ワインペアリングもあり、デザートも大変おいしくてよかったのですが、肝心の料理はちょっと退屈かなと思いました。アミューズ2品と前菜のChaatは大変良かったのですが、その他の肉や魚介類の料理などは、スパイス使いも抑え目で普通の西洋料理のような感じでした。次回もし訪れることがあれば、ベジタリアンコースを食べてみようかと思います。
十日目の昼は、またしてもDum Pukhtに行きました。スープとビリヤニを食べましたが、まぁ、良いのですが、初日ほどの感動は今回もなかったですね。
十一日目の夜は、VarqというTaj Mahalホテルの現代インド料理店を訪れました。こちらも高級な店なのですが、サービスはやや雑で、飲み物のメニューがかなり弱いです。ですが、料理はかなり特徴があってよかったですね。コースメニューで一品ごとにベジ・ノンベジが選べるのも大変良いです。料理だけみればIndian Accentより良いですね。
あくまでインド料理の範疇で、独自の工夫や、プレゼンテーションの改善などをしており、インド料理好きにもぴったりのお店です。
かなりおすすめです。飲み物などはもっと頑張ってほしい。
最後にちょっと北インドの旅のメモを書いておきます。
2016年末現在、インドでは通貨改革の影響で現金が極めて不足しており両替やATMなどに制限が加わっている状況です。そのため移動にはずーっとUberを使っていました。Uberは値段交渉の必要がないので、インドでは極めて便利です。車両はどこでもすぐに見つかります。Uberのおかげで旅行が10倍楽しくなりました。Uberありがとう!
そしてデリーは大気汚染がものすごくひどいので、外を歩くのは極力避けたほうがよいと思われます。こちらのサイトから調べられますが、場合によっては健康な人でも外出すると病気になるレベルの場合があります。私も外を1時間もあるくとすぐに気分が悪くなりました。バンコクに帰ったら気管支炎になってしばらく寝込んでしまいました…。
サルサを踊るために南デリーのHauz Khasというあたりに行ったら、そちらはずっときれいなエリアだったので、次に来るときはなるべくそのあたりに泊まりたいなと思いました…。
今回は一人旅だったのですが、中国では通用する「大量に頼んで大量に残す」という作戦が封じられたので痛かったです。たくさん頼もうとするとウェイターに「これで十分だ!」と止められてしまうので。親切といえば親切なんですが、今回の旅の目的からすると、ちょっと問題でした。
デリーのレストランはどこも非常に良かったので、次は複数人で食べに来たいものですが、入国審査の遅さや、日本からの距離などを考えると、なかなか友人と来るのは難しそうですねぇ…。
0 件のコメント:
コメントを投稿